近年、地球規模で環境問題への関心が高まる中、「リジェネレーション(Regeneration)」という概念が注目を集めています。
リジェネレーションとは、従来の「持続可能性(サステナビリティ)」の枠組みを超え、損なわれた自然環境や生態系を積極的に再生・回復させることを目指す、次世代の考え方です 。
ストックホルム・レジリエンス・センターが提唱するプラネタリーバウンダリーでは、地球の安定状態を維持するための9つの重要なプロセスを定義していますが、そのうち5つ(気候変動、生物多様性の損失、生物地球化学的循環、土地利用の変化、新規化学物質)は、すでに限界値を超えているか、安全域を超えつつあるとされています 。
この状況下では、現状維持を目指すサステナビリティの考え方だけでは不十分であり、環境を積極的に再生するリジェネレーションのアプローチが不可欠となります。
造園業は自然環境と直接関わる仕事であり、リジェネレーションの考え方を積極的に取り入れることで、より持続可能で魅力的な空間を創造することができます。
本記事ではリジェネレーションへの理解を深め、今後の造園における可能性を探ります。
リジェネレーション ベーシック講座について
リジェネレーション ベーシック講座は、一般社団法人ワンジェネレーションが主催するオンラインプログラムで、地球環境や生命の再生(リジェネレーション)に関する基礎的な知識や考え方を統合的に学ぶことを目的としており1月19日に行われた講座に参加させていただきました。
一般社団法人ワンジェネレーション https://onegeneration.jp
リジェネレーション(Regeneration)は、環境問題に対する新しいアプローチとして注目されている概念で、自然環境や生態系を積極的に再生・回復させることを目指します。この考え方は、気候変動や生物多様性の喪失といった地球規模の課題に対処するための重要な手段として広がりを見せています。
リジェネレーションの基本的な考え方
リジェネレーションは、環境や社会の現状を維持するだけでなく、以下のような積極的な再生をめざすことが目的です。
生態系の回復: 土壌や海洋など、自然環境が受けたダメージを修復し、健康な生態系を取り戻す。
持続可能な資源利用: 自然資源を枯渇させることなく、再生可能な形で利用する。
コミュニティの活性化: 地域社会のつながりを強化し、持続可能な生活基盤を構築する。
このアプローチは、従来の「環境保護」や「サステナブル」という枠組みを超え、環境そのものをより良い状態にすることを目標としています。
土壌の再生と農業への応用
リジェネラティブ農業は、土壌の健康を回復させることを目的とした農業手法です。具体的には、以下のような取り組みが行われています。
農薬や化学肥料の削減: 自然由来の堆肥を使用し、土壌の微生物や生態系を活性化。
不耕起農法: 土を耕さないことで、土壌の構造や炭素の貯蔵能力を維持。
生物多様性の促進: 輪作や混作を通じて、栽培地周辺の生態系を豊かにする。
これにより、温室効果ガスの排出を削減し、気候変動の緩和に寄与します。また、健康な土壌は炭素を吸収・貯蔵する能力が高く、地球温暖化対策としても有効です。庭園管理や森林管理にも応用できる技術があるのでとても興味深いです。
海洋生態系の回復
リジェネラティブ漁業では、海藻や貝類の養殖を通じて、海洋の炭素吸収能力を高める取り組みが進められています。例えば、海藻は水中の二酸化炭素を吸収し、酸素を放出することで、ブルーカーボン(海洋に貯蔵される炭素)の増加に貢献します。
建築や都市計画への応用
建築分野では、リジェネラティブ・デザインが注目されています。このデザインは、建物や都市が自然環境と調和し、エネルギーや資源を循環的に利用することを目指します。具体例として、雨水を利用した冷房システムや、植物を活用した排水処理システムなどが挙げられます。
サーキュラーエコノミーとの連携
リジェネレーションは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の一部としても位置づけられています。廃棄物をゼロにし、資源を循環させることで、環境負荷を最小限に抑えながら経済活動を持続可能にする取り組みと密接に関連しています。
リジェネレーションは、環境問題の「解決策」というだけでなく、自然と人間社会が共存し、繁栄する未来を築くための新しいビジョンを提供しています。このアプローチは、気候変動や生物多様性の喪失といった課題に対して単なる「被害の軽減」ではなく「積極的な回復」を目指す点が注目されています。
リジェネラティブガーデンといった概念も今後大きく普及していくと思われ生物多様性の保全、生態系サービスの向上、地域社会への貢献を軸にした庭園管理の知識や技術なども習得していきたいと考えております。
例えば庭園管理で行える積極的な回復とは何か?
在来植物の植栽:地域の気候風土に適した在来植物を植栽することで、生物多様性を高め、生態系のバランスを保ちます。
土壌改良:堆肥や有機肥料を使用し、土壌の健康状態を改善することで、植物の生育を促進し、病害虫の発生を抑制します。
水資源の保全:雨水貯留や透水性舗装など、水資源を有効活用する工夫を取り入れることで、水循環を改善し、水質汚染を防止します。
多様な生物の生息空間の創出:バードバスや昆虫ホテルを設置するなど、多様な生物が住みやすい環境を作ることで、生態系の豊かさを高めます。
このような取り組みを庭園管理など造園業が関わる仕事に組み込むことで生物多様性の向上、生態系サービスの向上、地域社会への貢献などが期待できます。
リジェネラティブガーデンは、従来の庭園の概念を超え、自然と共生する持続可能な空間として、今後ますます重要性を増していくと考えられます。単に美しいだけでなく、生物多様性を育み、地域社会に貢献する庭園は、リジェネレーションの考え方を体現するものです。
日本では、古くから自然と共生する文化があり、里山や棚田など、人間活動によって維持されてきた生態系が多く存在します。昔ながらの文化を継承していきながら今の時代にあった新しい形として文化を形成することも私たちの大事な仕事のひとつだと感じます。
今後、造園業界全体でリジェネレーションへの意識を高め、持続可能な社会の実現に向けて積極的に貢献していくことが重要です。
自然との直接的な結びつきが薄れ、環境問題を「自分と無関係」と感じてしまいどこか他人事だと感じてしまう時もあるかもしれませんが、すこし立ち止まって自然に目を向けて見ることも大事です。
「庭」という小さな自然環境でも 社会的・文化的・経済的なハードルや既存の価値観 が壁になり、どのようにしていけば庭の環境が良くなるかという解決策があってもなかなか実践・普及しない構造が見られます。
しかし、庭は個人が意志を持って変えられる空間でもあります。もし、一軒一軒が「庭=小さな生態系」の視点を取り戻し、地域で連携することで都市の生物多様性や環境全体の改善にも繋がる可能性を秘めています。
少しずつです私達も自然と共生する仕事を通して、自然環境と人をつなぐファシリテーターとして活躍していきたいです。