2025年2月4日から2日間、三重県松阪市大石(おいし)で開催された「地球守 つなぐプロジェクト三重まつさか大石 第2回ワークショップ」に参加させていただきました。
■ ワークショップ概要
イベント名地球守 つなぐプロジェクト三重まつさか大石 第2回ワークショップ
日時2025年2月4日(火)・5日(水)の2日間
場所三重県松阪市大石(白猪山〈しらいさん〉南麓の棚田地域)
講師
坂田 昌子さん
乗松 正博さん
山の際に建つ古民家やその敷地を舞台に、「人と自然の関わり」を実践的に学ぶ内容になっていました。
■ 参加のきっかけと学びたい事
私自身、三重県で庭園管理や竹林整備、伐採、森林整備などに関わる仕事をしており、「人の手が入らなくなった山や竹林がどう変化していくのか」を間近に感じてきました。また、昔の人々が山あいの地形や石積みをいかに活用し自然と調和しながら生きてきたのかという点にも強い興味があります。
目に見えない土中環境の大切さ
私たちが日常的に目にするのは、地表の植物や風景ですが、実はその足元にこそ、生態系の土台があります。
植物が十分に根を張れるかどうかは、土の固さ・通気性・水はけ・養分バランスなどに大きく左右され微生物や土壌生物(ミミズ、昆虫、菌類など)が豊かに存在する土では、落ち葉や枯枝の分解がスムーズに行われ、肥沃な団粒構造が生まれます。また、土中に適度な空隙(くうげき)があると、雨水が染み込みやすく、地下水や川の水源として利用される一方、土壌流出や洪水を防ぐ効果も期待できます。
こうした要素の多くが、地上からは直接見えにくい土中で進行しているため、表面上だけでの手入れやデザインだけではとても健在な環境を維持していく事は難しく、本質的に持続可能な環境を作るには、土壌の状態への理解が不可欠になり、このような事も含め自然環境を深く理解したいという思いが常に私達の中ではあります。
■大石(おいし)という場所について
ワークショップが行われた松阪市大石町(おいしちょう)は、室町時代からの棚田が残り、石垣が今も見られます。近くには白猪山(しらいさん)があり標高819.4mの山で、伊勢湾を行き交う船の目印ともなったそうです。
「伊勢三山」の一つで山頂近くには石尊大権現が祀られ、周辺には花崗岩や砂岩・頁岩(けつがん)など様々な地質が混在しています。
松阪市全域の地質を見ると、大部分が秩父帯に属し、砂岩や頁岩などの堆積岩が広く分布しています。土壌は、これらの地質を母材とした褐色森林土が一般的です。
秩父帯は、中生代ジュラ紀から白亜紀にかけて形成された地層であり、砂岩や頁岩は、海底に堆積した砂や泥が固まってできたものです。花崗岩は、地下深くでマグマが冷え固まってできた岩石です。これらの地質の違いが、土壌の性質や植生に影響を与えていると考えられます。
土壌は、褐色森林土壌が主体であり、土質的に排水性はやや不良になります。褐色森林土壌は、温帯湿潤気候の森林下で生成される褐色の土で落葉広葉樹林に多く見られる土壌で、有機物が豊富です。排水性はやや不良であるため、スギやヒノキなどの湿潤な環境を好む樹種が生育しやすい環境となっています。
今回参加させていただいたワークショップの開催地の山林には孟宗竹が侵入しており、笹の手入れなども学ばせていただきました。
大石町には、約1200年前に弘法大師空海が開創したとされる「大石不動院」があります。以前松坂を訪れた時にも寄らせてもらったのですが、今回も通り道だったので素敵な石積みを拝見してきました。
今回は行けなかったですが、室町時代から続く美しい棚田が広がっており、中でも深野地区の「深野のだんだん田」は有名です。石垣で形作られた約120段の棚田は、まるで一つの芸術作品のようだと称されてます。
長い年月を経てもなお、地域の人々の手によって維持されており、日本の原風景の一つとして大切に守られています。
大石町に広がる歴史的な景観や文化遺産は、現代における環境保全や持続可能なお手入れを学ぶ上で貴重な場所だと感じました。また、クマタカなど希少生物の生息地としての重要性も高いと言われており、今回のワークショップを通じて、自然環境の多様性がいかに大事かを改めて考えさせられました。
1日目、2日目ともにフィールドワークをしながら、水の浸透性を考慮した土壌・地形づくり、落ち葉・枯れ枝の活用、水・地形と浸透性、笹の管理、ぼさ、しがらの作り方などを学びました。
実際にワークショップに参加しながら実践してみると、なぜこのような工法がこの場所では必要かなどその場所に触れる事で分かる事や気づきも多くあり、五感と合わせて自然に触れていく事がいかに大事な事かが分かります。
今回学ばせていただいた事をいくつかご紹介させていただきます。
里山手入れで「ぼさ(よせ)」や「しがら」は、落ち葉・小枝などの有機物を活用し、土壌保全や肥料づくり、里山手入れなどに役立てるための技術・手法です。
■ ぼさ(よせ)とは?
画像に写っている方が今回のワークショップで講師をされていた坂田 昌子さん
「ぼさ」や「よせ」は、地域によって呼び方が異なり、朽木や落ち葉、小枝を一箇所に寄せ集めた状態、あるいは堆積させたものを指します。「萱(かや)」「草(くさ)」「落ち葉(らくよう)」などをまとめて“ぼさ”と総称する地域もあり、目的は土壌保全、堆肥づくり、雑草抑制など、多岐にわたります。
里山の二次林や農地を管理する上で、人々は古くから、刈り取った草や落ち葉を捨てるのではなく、資源として循環させる仕組みを築いてきました。
お庭などで越境している樹木から落ち葉が落ちて近隣から苦情がきたとご相談を受ける事が多くありますが、見方や活用方法があれば落ち葉や枝は大切な資源として有効活用できます。
■ぼさ(よせ)の目的・効果
ぼさ(よせ)とは、朽木や落ち葉、小枝を一箇所に寄せ集めて堆積させる手法で、土壌保護・養分補給・堆肥づくりなど多面的なメリットがあります。里山では、大量の刈草や落ち葉が発生しますが、それらをぼさとして一定場所に集めておくと、自然分解による腐葉土化が進み、植物の育成や土壌団粒化に繋がります。
さらに、今回のワークショップで学んだのは、“ぼさ”を適切な場所に設置することで水みちを整えるという考え方でした。
雨が集まる斜面や山では、集中豪雨時などに雨水が流れやすいルート(=水みち)が形成され、そこが拡大すると表土の削れや土壌流出が深刻化します。そこで、流れが集中する付近にぼさを段状に積むことで、水の勢いを和らげながら、地中へ緩やかに浸透させる自然のフィルターとして機能します。土壌流出を完全に止めるのではなく、あくまで水を通しつつクッションの役割を果たす点がポイントといえます。
さらに、ぼさがもつ有機物の層は、地表を裸にさせず土壌移動を抑えるため、種子や芽(実生)の根付きが促されやすくなります。特に在来の広葉樹や草本の実生が定着し、しっかりと根を張るようになると、根のネットワークが土壌をホールドし、長期的な斜面の安定化をサポートすることにも繋がります。
かつて里山手入れが行き届いていた地域では、こうした自然の営み+人の手が相互に作用し、多様性豊かな植生と土壌が維持されていたと考えられます。
このように、ぼさ(よせ)は単なる小枝・落ち葉の集積だけではなく、水みちの流量調整や在来種の実生定着にも寄与し、結果として斜面の崩壊リスクを緩和する可能性を秘めています。
里山の循環型文化を見直すうえでも、定期的に発生する草や落ち葉を活かした、ぼさづくりは今後の森林整備にも活用させていただこうと思います。
■ぼさ(よせ)の作り方
1 朽木や落ち葉、小枝を一定の地点に積む
今回のワークショップでは、山あいの斜面を利用しながらぼさを積み上げました。大きめの枝や朽木、落ち葉を上に重ねてミルフィーユ状を意識することで、空気を含みやすく、分解が進みやすい構造になります。写真では分かりにくいのですが、実際にやってみると細かい作業も多く寒さも忘れて熱中しておりました。
ポイント 隙間が複雑になるように枝を配置。落ち葉を枝で止める感覚。仕上げは落ち葉でこんもり。
等高線や棚を意識して山の斜面に対して垂直に。水みち付近にはまめづた、フユイチゴが多い。
2 適度な水分と通気
押し固めないようにして、微生物が活動しやすい環境をつくります。里山では降雨が適度にあるため、水やりをこまめにしなくても分解は進みます。 時期や素材にもよりますが、半年から1年ほどで分解が進み、良質な腐葉土として活用できるようになります。
里山の二次林や農地を管理する上で、人々は古くから、刈り取った草や落ち葉を“捨てる”のではなく、“資源”として循環させる仕組みを築いてきました。
ぼさに集められた有機物は、最終的に腐葉土や堆肥になり、農作物や森林の植生を育て、再び落ち葉として土に還る―循環型の暮らしを象徴する知恵です。
■しがらとは? しがらむ事でより効果が発揮されるしがら
しがらとは、山林の斜面保全や里山手入れにおいて活用される伝統的な手法です。木杭を設置し、その間に小枝、落ち葉を編み込むことで、土砂の流出を緩和しながら水の浸透性を高め、植生の回復を促します。コンクリートや鋼材を使った近代的な土留め工法に比べ、環境への負荷が少なく、持続可能な斜面保全技術として再評価されています。
しがらは、斜面における雨水の流れを緩和し表土の浸食を防ぐとともに、水の浸透性を高めて地下水を涵養し、その内部に形成される菌糸ネットワークによって土壌を改良しながら、在来植生の回復や生物多様性の向上なども期待できる自然に寄り添った工法です。
■しがらの作り方
しがらの基盤となる木杭は、腐りにくく耐久性のあるクヌギ、クリ、コナラ、カシ、などの広葉樹を使用するのが理想的です。今回はスギなども取り入れながら、事前に焼杭処理も行なった物も使用していました。
杭打ちの穴の間隔は均等に配置されているように見えましたが、杭を設置する場所も大事だという事でこれは経験を積みながら徐々に把握していく必要があると感じます。
杭の太さは10cm前後のものを今回は使用しており、環境や、斜面の深さなどでも資材は変わってくると考えられます。
杭が設置できた段階で、しがらを編み込む前に、支柱の間に丸太を設置していきました。各杭の間隔事に切り分けながら丸太を設置し、なるべく土との接着面が多いように並べていきました。
残念ながらうまくしがらんでいる写真が全く撮れてなかったので、次回実践してみながら段階的な写真を撮っていこうと思います。
しがらには、小枝や粗朶(そだ)を利用しており、細かく編み込みながら、外れないようにしていく事がかなり難しく、また枝の種類によってはすぐに折れてしまうものもありなるべくやわらかな枝が適しているようでした。生木の枝を使用する場合は、生の葉を一緒に入れるとガスが発生してしまうため、葉は取り除いて使用します。
しがらの実技は二日目の午後からになり、途中から雪が激しく積雪してきたため残念ながら最後まできちんと見る事ができませんでしたが、実際に今住んでいる家の裏山でも活用できそうなので実験と観察を兼ねてしがらを設置したいと考えております。
適切な設置とメンテナンスを行うことで、長期的な環境改善が期待できるため、今後さらに多様な場面での応用が進むと考えられます。私達もこうした自然と調和のとれた文化や工法などを身につけながら様々な活用方法を模索していきたと思います。
講師の乗松さん もっとお話ししたかった!
この他にも笹の管理や、植栽基盤となるマウンドの作り方。水みちの作り方など二日間でいろいろな事を学ばせていただきました。
■土中環境は人間の心に似ている
私たちが日常的に目にするのは、地表の植物や風景ですが、実はその足元の下にこそ、生態系の土台があります。今回のワークショップで自然環境に触れる事の大事さやそこに携わる方の心の在り方なども大変参考になりました。こうした見えない部分をうまく伝えていきながら、「本当に大事なものは何か」という問いを常に忘れないようにして自然と共に調和できる仕事をしていきたいです。
大石でのワークショップを初めて受けて、技術的な側面など十分に理解できていない点もあります。
「しがら」や「ぼさ」の設置方法や効果について、実際のフィールドワークでの体験を通じて理解が深まったものの、まだ細かな部分での知識が不足していると感じました。今後、ワークショップにも積極的に参加しながら実際に自分の作業や試験を通じてさらに理解を深めていきたいと思っています。