三重県尾鷲市で進められている「みんなの森」プロジェクトに、剪定作業で発生した枝を提供させていただきました。このプロジェクトは、尾鷲の豊かな森林と海のつながりを取り戻し、地域の自然環境を守ることを目的に進められています。
みんなの森プロジェクトは、尾鷲市が目指す「ゼロカーボンシティ」の実現に向け、森林の生態系を守りながら、企業や地域と協力して森づくりを行う取り組みです。尾鷲の美しい自然や産業を100年先へ引き継ぐため、間伐や広葉樹の植樹など、さまざまな活動が行われています。
そんな中、森林整備に必要な「ぼさ」や「しがら」用の枝が不足しているというお話を伺い、剪定枝を提供させていただきました。

剪定作業では、庭木の健康を維持するために多くの枝葉が発生します。これらは通常、チップ化して堆肥にしたり、燃料として利用することが一般的ですが、今回は「ぼさ」や「しがら工法」に活用していただくことになりました。
「ぼさ」や「よせ」は、地域によって呼び方が異なり、朽木や落ち葉、小枝を一箇所に寄せ集めた状態、あるいは堆積させたものを指します。「萱(かや)」「草(くさ)」「落ち葉(らくよう)」などをまとめて“ぼさ”と総称する地域もあり、目的は土壌保全、堆肥づくり、雑草抑制など、多岐にわたります。
2025年2月4日から2日間、三重県松阪市大石(おいし)で開催された「地球守 つなぐプロジェクト三重まつさか大石 第2回ワークショップ」にて私達もこの工法を知りました。
2日間のワークショップだけではまだ落とし込めていない所もあり、実験的に家の前の山林で試してみました。

「ぼさ」作りの目的と期待される効果
「ぼさ」は、落ち葉や枝を積み上げることで水が適切に浸透し、斜面の土壌流出を防ぐ環境改善技法の一つです。特に、雨水が集中する場所に設置することで水の流れを緩やかにし、根を張る植物の成長を促進する効果が期待されます。
今回の施工では、水の流れが集まりやすい斜面の特定箇所に「ぼさ」を設置しました。時間の経過とともに、この場所の土壌や植生にどのような変化が起こるかを継続的に観察していきます。
今後の観察ポイント
「ぼさ」は設置後の環境変化が重要です。以下のポイントを継続的に観察し、適切な管理を行っていきます。
- 雨後の水の浸透状況の変化
- 斜面の土壌流出の有無
- 周囲の植生の変化(新たな植物の発芽、根付きの状況)
- 昆虫や微生物の増加状況
これらのことを踏まえ、「ぼさ」の効果を検証し、今後の土地管理や環境保全に活かしていきます。

用意したもの
道具
・平ごかき
・み
・ふご
・チェンソー
・チャプス
・かけや
素材
・落ち葉
・朽木、丸太
・枝
・杭に出来る枝

まずは水みち周辺の笹をハサミで根元から切り、取り除きます。
次に、雑木杭を作ります。

幅約60cmの小さな「ぼさ」を作るため、杭の長さは約50cmに設定。チェーンソーを使用して50cmほどの枝丸太を2本加工しました。
適した樹種について
カシ、クヌギ、コナラは腐りにくく、ぼさ作りに適していますが、スギでも施工可能です。今回の現場では、直径4cmほどのカシの枝を使用しました。
杭の必要性について
現場の地形によっては、山の斜面に自然な棚状の地形がある場合があり、その場合は杭を使用せずとも「ぼさ」が安定して留まることがあります。状況に応じて適切な方法を選択することが大切です。

枝丸太の下側に杭の面を造っていきます。枝丸太の上下は立木時と同様の向きで使用すると道管も活かせます。杭の面は3面造ります。4面だと抵抗がかかるため、3面がおすすめです。

「ぼさ」をつくる箇所に杭を打っていきます目印は、シダです。「ぼさ」は山の斜面に対して直角に造り初めの横木が直角に収まるよう杭を打ちます。

土台のろに大きめの枝や朽木を並べていきます。
横木の大きさや置き方は複雑な方が良いです複雑な空間を造ることによって、虫たちが住み着きやすくなります。
杭を打ったら、まずは横木を渡します。土台になる横木は重めのものが良く、今回は椎茸が出なくなった原木と杉を使用しています。 横木の下に石などを挟んで空間を造っておき、分解の手助けもしてくれる虫の住処(すみか)として虫を呼び込む仕掛けにします。「ぼさ」は、虫アパートでもあります。

横木の下に造った空間や、横木の間に落ち葉を詰めていきます。
落ち葉の詰め具合は、「しがら」を造るときほどギュウギュウではないけど、出来るだけ多く詰めていきます。

横木の左右にもしっかり落ち葉を詰めていきます。
ワークショップで聞いた話
畑にたぬきが降りてきて困っていた地域の山に「ぼさ」を造ったところ、「ぼさ」に住み着いた虫がたぬきの餌となり、畑に降りてくることが減った、という事例があるそうです。

落ち葉が流れないように支える感覚で、枝を横木の隙間に差し込みながら、落ち葉を少しずつ重ねていきます。
細い枝を組み合わせることで自然に隙間ができ、その空間にさらに落ち葉を詰め込んでいきます。
枝や落ち葉が複雑に絡み合うほど、微生物や昆虫たちの住処となり、土壌の豊かさを育んでくれます。
「ぼさ」の形は、こんもりとした“かまぼこ状”になるよう意識しながら、全体を整えていきます。

「ぼさ」完成です。駆け足で造ったため、かまぼこ状には少し足りていません。

理想的な形は、枝と落ち葉をさらに重ね、かまぼこ状に整えることです。仕上げに、横木が見えなくなるほど落ち葉をたっぷりと盛り、全体をふんわりこんもりさせます。
この「ぼさ」が環境にどのような変化をもたらすのか、長い時間をかけて観察しながら、その効果を見守っていきます。

剪定屋空では、剪定後の枝や落ち葉などを処分するのではなく、自然資源の活用という視点から、新たな価値を生み出す取り組みを続けています。その一環として、木鳥商店では、自然素材を活かしたものづくりや自然素材の販売などをを行っています。
木鳥商店とは
木鳥商店は、剪定屋空が運営するオンラインショップです。伐採木や竹、落ち葉など、これまで廃棄されていた自然素材を活用し、オーダーメイドの木工製品や環境教育アイテムを制作・販売しています。
取り組んでいるものづくり
・ 木の文具(自然の木をそのまま活かした鉛筆やクリップボード)
・ 環境教育に役立つ木製アイテム(学校や保育施設向けの教材など)
・ 里山の恵みを活かしたオーダーメイドの生活雑貨
・ こんな木の素材がほしいという要望に応じた自然資材の提供
「みんなの森」プロジェクトへの剪定枝の提供も、自然の循環を活かした暮らしづくりの一環です。
木鳥商店では、こうした視点を大切にしながら、自然素材を活かしたものづくりを続けています。
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