地球の仕事大学のオンライン講座で2025年1月13日に行われた農林複業学部 有機土木®︎コースを受講させていただきました。
有機土木®とは、従来の土木技術がインフラ整備や都市開発を優先してきたのに対し、自然との共生や地域資源の活用を前提とする新しい土木の概念です。
森林や里山における土壌の保全、水の循環、地域コミュニティの活性化を同時に目指すアプローチであり、単に道路を造ったり護岸を固めたりするのではなく環境を生かしながら人々の暮らしを支えるという点に大きな特徴があります。
たとえば、有機土木®では雨が土壌に自然と染み込む仕組みをつくる技術や、植生を活かして土中の通気・水はけを整える方法などが紹介されます。私たち剪定屋空でも、土壌の透水性を向上させたり、在来植物を活かした植栽設計を行ったりと、類似した考え方を実践しています。
私たち剪定屋空(せんていやそら)は、三重県で造園や庭園管理、森林整備、ビオトープ管理などを通じて、「自然と人が調和して生きられる社会」の実現を目指しています。近年は気候変動や豪雨災害など、自然環境の変化が顕在化してきていますが、その背景には、私たち人間の生活と自然の関わり方に課題があるのも事実です。こうした状況を受け、先日「有機土木®」に関する講義を拝聴しました。
今回はその内容から得た学びを、私たちの取り組みなどとあわせてご紹介します。
有機土木®とは?
「有機土木®」とは、従来の土木技術がインフラ整備や都市開発を優先してきたのに対し、自然との共生や地域資源の活用を前提とする新しい土木の概念です。森林や里山における土壌の保全、水の循環、地域コミュニティの活性化を同時に目指すアプローチであり、単に道路を造ったり護岸を固めたりするのではなく、環境を生かしながら人々の暮らしを支えるという点に大きな特徴があります。
有機土木協会さんのオフィシャルサイトです。
一般社団法人 有機土木協会オフィシャルサイト https://organiccivilengineering.org
リベラルアーツと土中環境:自然を観察する大切さ
講義の中では、「リベラルアーツ」と「土中環境」というキーワードも強調されました。これは、自然に対する総合的な理解を深める姿勢を指し
土中の微生物や根の生長
水の流れや空気の循環
植生の組み合わせによる生態系の成り立ち
などを観察しながら、現場に最適な対応をしていくという考え方大事だと感じました。
私たちが日々行っている庭園管理や森林整備も、まさしく“現場をよく見て、声なき声を聞く”ことから始まります。
「なんとなく手入れしたり植栽する」のではなく、土壌の特徴や水はけ、周囲の環境をしっかり観察した上で、植える樹木の種類や配置、剪定、管理のタイミングを計画していく事が大事です。
自然観察から広がる可能性:“谷が呼吸している”という視点
講義の中で印象的だったのは、「谷の部分で山が呼吸している」というお話でした。山間部や里山では、水と空気が谷を通じて循環し、まるで山全体が呼吸しているかのようなダイナミックな動きを見せます。これは都市部ではなかなか実感できないかもしれませんが、自然観察を通じて環境の美しさや働きを理解し、それを次世代へつないでいく意義を、改めて感じさせてくれるエピソードでした。
有機土木®が生み出すコミュニティと環境保全
さらに有機土木®では、地域コミュニティの形成も大きなテーマとなっています。その場に携わるいろんな方の理解がやはり環境を良くすることに繋がると私達も考えており、周りの環境はそこに住む人間の心のあり方を映し出しているのではないでしょうか。
土中環境を改善したり、環境に配慮したインフラ整備を行ったりする作業に、地域の人々も参加することで、次第にコミュニティの絆が強まります。
土中環境の改善がもたらす恩恵
また、有機土木の要点として何度も言及されていたのが、土中環境の視点を取り入れることの重要性です。
雨水を適切に土壌に浸透させる
生態系に配慮した植栽や土壌改良を行う
防腐処理をせず、朽ちることを前提に自然に戻る素材を選ぶ
こうした工夫を重ねることで、水と土がうまく循環し、健全な植生や野生生物の生息環境を育むことが期待できます。
従来の土木では、護岸工事による河川の人工化が進み、雨が地面に吸収されず一気に流れてしまう問題もありました。今後は「土に水がちゃんと染み込み、自然のペースで循環する」環境づくりこそが、豪雨災害などへの対応にも有効なアプローチになります。
地域への応用事例:雨の森や大滝村の取り組み
講義では、雨の森や大滝村といった現場での取り組みが紹介されました。肥料や農薬を使わない庭づくりや、観光資源として自然を活かしながら環境を守る方法など、地域の特性を踏まえた有機土木の実践が、実際に進められているのです。私たち剪定屋空も、三重県の豊かな自然や文化を背景に、“できるだけ人為的な負荷を減らし、地域に本来ある風景を取り戻す”ことを目指しています。
造園×土木×環境教育=新しい未来のために
講義を受けて改めて感じたのは、造園と土木は本来一続きの関係にあるということです。造園は庭や緑地をデザインする技術であり、土木は地形やインフラを整備する技術ですが、共通の土台は「土や水、自然環境と人の暮らしのバランスをどう保つか」という点にあります。
そこに今回学んだ「有機土木®」の考え方を取り入れると、造園の枠を超えて、広い範囲の自然環境を守るための総合的なアプローチが見えてきます。
さらに、この知識を環境教育の場で共有すれば、次世代の子どもたちにも“美しい自然環境を受け継ぐ意義を伝えていけます。
「答えは自然が出してくれる」:現場の観察が導く解決策
講義の中でも印象深いフレーズとして、「答えは自然が出してくれる」という言葉がありました。長年、現場に携わってきた方々が口をそろえておっしゃるのは、自然の変化をよく見て、必要な処置を少しずつ重ねていくことが一番大切だということです。
講義を通じて学んだ「有機土木®」や「土中環境」の視点は、私たちの活動にも大いに参考になりました。地球の仕事大学さんの他の講座も興味があるものがいくつかあったのでまた受講してみようと思います。
地球の仕事大学 https://chikyunoshigoto.com
雨水がきちんと大地に染み込み、山が呼吸を続ける里山や庭をつくる
地域コミュニティと連携しながら、自然に配慮したインフラ整備を考える
自然観察を重視し、答えを自然から学ぶ姿勢を大切にする
こうしたアプローチを実践していくことで、次世代に“美しい世”を残すことができると信じています。私たちも、三重県をはじめとする各地域での庭づくりや里山整備を通じて、この考え方を一歩ずつ形にしていきたいと思います。
これからも「自然と人」が共にいきいきと暮らせる環境づくりを目指していきます。皆さんもぜひ、有機土木や土中環境に注目してみてください。私たち剪定屋空としても、この視点を活かした庭づくりや環境整備に一層取り組み、より豊かな自然を次世代に引き継ぐお手伝いをしてまいります。