三重県菰野町の定期管理させていただいているお庭に人工巣洞2号を設置しました。この設置の最大の目的は、生物学的防除の促進です。
シジュウカラなどの野鳥を誘致することで自然な害虫制御を実現し、化学農薬の使用を最小限に抑えることを目指しています。設置場所には、庭木として植えられたシマトネリコを選び、地上から2m10cmの高さに取り付けました。
生物学的防除としての野鳥の役割
シジュウカラは優れた害虫捕食者として知られています。一日に数百匹もの昆虫を捕食し、特に繁殖期には、雛への給餌のために大量の害虫を捕らえます。アブラムシ、コナジラミ、ハダニ、イモムシ、アオムシ、チャドクガなど、庭木や草花に被害を与える害虫なども好んで食べる習性があります。この天敵としての機能を活用することで、農薬散布を最小限に抑えて自然に優しい庭園管理が可能となります。
人工巣洞2号の仕様
今回設置した人工巣洞の詳細は以下の通りです
人工巣洞オンラインモニタリングボード https://miro.com/app/board/uXjVKllF0i4=/
基本情報
巣洞ID:人工巣洞2号(製作日:2024/04/24、設置日:2024/11/18)
材質:ゴンズイ(本体)、杉(屋根)
装飾:苔、柊幼木、杉幼木
サイズ:縦24.5cm × 横23cm × 奥行23cm
入口直径:30mm(シジュウカラの利用に最適化)
柊は昔から魔除けとして用いられる事もあり、鳥たちの安住を目指して装飾しました。
設置環境
場所:三重県菰野町の住宅街
設置樹種:シマトネリコ(地上高2m10cm)
向き:東北
周辺植生:ヤマボウシ、ジュンベリー、モミジ、コバノズイナ、トサミズキ、アベリア
周辺環境は、ヤマボウシ、ジュンベリー、モミジ、コバノズイナ、トサミズキ、アベリアなど、多様な植物で構成されています。この豊かな植生は、シジュウカラの採餌活動を支援し、安定した生息環境を提供することが期待されます。東北向きに設置したことで、朝日を浴びつつも強い直射日光を避けることができ、巣箱内の温度管理に適した条件となっています。
今回設置した人工巣洞は、本体にゴンズイ、屋根に杉を使用し、苔や柊幼木、杉幼木で装飾を施しました。巣箱の大きさは縦24.5cm×横23cm×奥行23cmで、入口の直径は30mmとしました。この寸法は、シジュウカラの利用のしやすさと、スズメなどの他の鳥による侵入防止を考慮しました。
巣穴の大きさは大変重要で人間の家でいう玄関になるので玄関周りの相性は大事です。
まだまだ施工錯誤中の人工巣洞ですが、鳥になって住みやすい居心地の良い環境を鳥たちに提供したく人工巣洞の製作において、人間の住まいづくりの考え方を取り入れていきたいです。
鳥たちにとって、巣洞は単なる巣箱ではなく、子育ての場であり、生活の拠点となる大切な「家」です。
今後こだわっていきたい箇所は
玄関へのこだわり
人間の家で玄関が重要なように、鳥たちにとって巣穴の入り口は最も重要な部分です。入り口の直径は、シジュウカラであれば30mm前後が理想的とされていますが、私たちはそれだけでなく、巣穴周辺の質感にもこだわります。
例えば、雨の日でも安全に出入りできるよう、巣穴の周囲には細かなやすりがけを施し、適度な摩擦を持たせています。これは、人間の家の玄関が滑り止め加工されているのと同じ発想です。また、巣穴の縁は少し内側に傾斜をつけることで、雨水が内部に侵入しにくい構造としています。
内装への配慮
室内の快適性も重要です。内壁は自然な木肌を残しつつ、鳥たちが爪を引っかけやすい適度な凹凸を残しています。これは、人間の家でいえば、住み心地の良い内装材の選択に相当します。
断熱と換気
人間の家で断熱と換気が重要なように、巣洞内の温度と湿度の管理も鳥たちの快適な生活に欠かせません。木材の厚みを適切に設定し、自然な断熱効果を得られるようにしています。
防災への配慮
人間の家で耐震性が重要なように、鳥たちの住まいも安全性が第一です。強風でも揺れにくい設計や、捕食者から身を守れる構造を採用しています。また、緊急時の避難経路として、二つ目の出入り口(非常口)の設置も検討しています。
日本鳥類保護連盟では、シジュウカラに対して「2つ穴」の巣箱を推奨しています。1つの穴のみの場合、天敵であるヘビなどが侵入した際に逃げ場がなくなるリスクが高いためです。2つの穴を設けることで、片方の穴からの脱出が可能となり、安全性が向上します。観察からも、シジュウカラは出入りにおいて異なる穴を利用することが確認されており、これにより敵の襲撃を避けることが可能になっていると考えられます。
立地条件
人間が住む場所を選ぶように、巣洞の設置場所も慎重に選定します。朝日が当たり、強風を避けられる東向きの場所を基本とし、餌場となる周辺の植生も考慮します。また、人間の往来と適度な距離を保ちつつ、メンテナンスのしやすい場所を選びます。
シジュウカラ (Japanese Tit, Parus cinereus)
シジュウカラ科シジュウカラ属に属する体長約14-15cmの鳥で、日本全国でよく見られる留鳥または漂鳥です。都市部から山地まで広く生息し、知的な行動と適応力の高さから人間との関わりも深い存在です。主に平地から山地の森林、都市公園、住宅街に生息し、昆虫類やクモ類、木の実、種子などを食べて暮らしています。繁殖期以外では他のカラ類やスズメと混群を形成して行動することが多く、社会性が高いことが特徴です。
庭にシジュウカラを呼ぶための工夫
シジュウカラを庭に呼ぶためには、巣箱や人工巣洞の設置が非常に有効です。都市部では、洞ができるような大木が少ないため、人工物の穴や隙間を利用して営巣します。そのため、巣箱を設置することで、シジュウカラに適した営巣環境を提供できます。また、シジュウカラは庭木の葉を食べる昆虫の過剰な発生を抑制する効果もあり、人間にとっても有益な存在です。毎日庭にシジュウカラが姿を見せることは、非常に癒しとなり、自然とのつながりを感じることができます。
設置する最適な時期は初冬です。シジュウカラは冬の間、ねぐらとして巣箱を利用することがあり、翌春の営巣場所の候補として巣箱をチェックします。既に巣箱を設置している場合は、繁殖期が終わった9月から10月に掃除を行います。これにより巣箱の材が傷むのを防ぎ、次の繁殖シーズンに向けて清潔な環境を提供できます。
シジュウカラは都市の生態系において重要な役割を果たしています。害虫の自然な抑制者として機能し、生物多様性の指標種としての価値を持ちます。また、環境教育や自然観察の対象としても有用です。巣箱の設置と観察を通じて、身近な自然との関わりを深めることができます。
巣箱を設置した後は、定期的なモニタリングを行い、利用状況や効果を記録していく予定です。特に、シジュウカラの営巣の有無、害虫の発生状況の変化、周辺環境への影響などを注意深く観察していきます。
シジュウカラの生態や行動を理解することは、庭に豊かな自然の一部を取り戻す手助けとなります。今回の三重県菰野町での人工巣洞2号の設置は、その一環としてシジュウカラやヤマガラの営巣環境を提供する取り組みです。適切な巣箱の設置とメンテナンスを行うことで、シジュウカラが安心して暮らせる環境を提供し、庭に自然の営みをもたらすことができる活動をしていきます。