日本の風景を象徴してきたスズメ(Passer montanus)が、近年急速に数を減らしています。この現象は多くの研究や観察で指摘されています。日常の風景から姿を消しつつあるスズメに対する懸念が高まっています。ここでは、スズメ減少の原因、影響、そして私たちができる対策について考えてみたいと思います。
スズメ減少の主な原因
スズメの減少には複数の要因が絡んでいます。特に以下の要因が大きく影響しています。
都市化と生息地の減少
都市化の進展により、スズメが巣を作る場所が急速に失われています。スズメはかつて家屋の軒下や瓦の隙間に巣を作っていましたが、高層マンションや新しい住宅の普及が、伝統的な巣作りの場所を減少させました。木造建築の減少も、スズメに適した巣作り環境を奪う要因となっています。
農薬の使用と餌資源の減少
農業での農薬使用により、スズメの餌となる昆虫が激減しました。また、稲作の収穫方法の変化もスズメが稲穂の籾を食べる機会を減らし、食糧不足が生存率を低下させています。
気候変動と環境の変化
気候変動がスズメに影響を与えています。気温の上昇や季節の変動が昆虫の発生パターンを変え、スズメの繁殖や食餌行動に影響を及ぼしています。
スズメ減少の実態
日本における調査データ
環境省生物多様性センターの「モニタリングサイト1000」による調査(2004年-2020年)では、以下の結果が報告されています。
全国の調査地点における出現率の経年的な低下傾向
特に都市部における確認個体数の顕著な減少
2009年から2019年の間に、都市部での生息密度が約15%減少
(出典:環境省生物多様性センター「モニタリングサイト1000 陸生鳥類調査報告書」2021年)
日本野鳥の会による全国鳥類繁殖分布調査(1998年-2002年、2016年-2021年の比較)では
1970年代と比較して、都市部での営巣数が約40%減少
特に関東地方の市街地における減少が顕著
(出典:日本野鳥の会「全国鳥類繁殖分布調査報告書」2022年)
バードライフ・インターナショナルの「State of the World's Birds 2022」報告書によると
アジア地域全体でスズメを含む小型鳥類の48%が減少傾向
都市化の進展による影響が特に顕著
農業形態の変化が個体数減少の主要因の一つ
(出典:BirdLife International, "State of the World's Birds 2022")
スズメは農村や都市の生態系において重要な役割を担っています。特に農業環境では、害虫を捕食することで農作物の被害を抑制しています。そのため、スズメが減少すれば、農作物への害虫被害が増え、農業生産に影響が出る可能性があります。また、スズメは日本の文化にも深く根ざしており、スズメの減少は文化的な喪失感をもたらすとも言われています。
ヨーロッパにおける鳥の減少
ヨーロッパでも鳥類の個体数減少が深刻な問題となっています。特に、"Ecology and Evolution"誌に掲載された研究では、1980年以降、ヨーロッパの鳥類個体数が約20%減少したと報告されています。この減少は約4億2,100万羽に相当し、特に農地の鳥類が大きく影響を受けています。
Ecology and Evolution誌の研究結果
研究者:Inger et al.
発表年:2015年
主要な知見:
1980年以降の鳥類個体数約20%減少
総数で約4億2,100万羽の減少
特に農地性鳥類における顕著な減少
(出典:Inger, R., et al. (2015). Common European birds are declining rapidly while less abundant species' numbers are rising. Ecology and Evolution, 5(9), 2041-2043.)
エコロジーと進化誌による研究では、欧州連合全体の鳥の個体数が1980年以来約20%減少したことが示されています。この減少は、過去40年間でヨーロッパで失われた約6億羽の繁殖鳥に相当します。
また、王立鳥類保護協会(RSPB)、バードライフインターナショナル、チェコ鳥類学会による研究では、特に農地や草原で繁殖する鳥類、および長距離渡り鳥において大きな減少が確認されています。この研究は、北米でも1970年以来30億羽の繁殖鳥が失われたという、2019年にサイエンス誌に掲載された調査結果と類似しています。
Science誌掲載研究(2019)
研究成果:
1970年以降、約30億羽の減少
年間約0.5%の減少率
(出典:Rosenberg, K.V., et al. (2019). Decline of the North American avifauna. Science, 366(6461), 120-124.)
欧州鳥類モニタリング計画(EBCC)の調査
調査期間:1980-2020年
主な発見:
農地性鳥類の56%減少
一般的な鳥類の15-20%減少
(出典:EBCC/RSPB/BirdLife International/Statistics Netherlands. European wild bird indicators, 2021 update.)
コーネル大学鳥類学研究所のディレクターであるイアン・オーエンス氏は、「ヨーロッパの研究における年間鳥の喪失率は、北米の減少率と非常に似ています。これは年間0.5%の減少で、一見すると小さな数値に見えるかもしれませんが、長期的には人間の生涯にわたる大規模な生態系の崩壊を意味します」と述べています。
また、RSPBのフィオナ・バーンズ氏は、「自然と気候変動の危機に一緒に対処するためには、社会全体での変革的な行動が必要です。自然に優しい農業、種の保護、持続可能な林業と漁業の促進、保護地域ネットワークの急速な拡大が求められています」と述べています。
さらに、スズメの保護活動に取り組むインドの団体「ネイチャー・フォーエバー・ソサエティ」のモハメド・ディラワール会長は、スズメの個体数の減少はインドだけに見られるものではなく、アフリカ・アジア地域とヨーロッパの一部に広がるスズメの自然生息域全体で世界的な傾向であると指摘しています。
このように、鳥類減少問題は予想を超える規模と速度で進行しており、世界的な課題となっています。
スズメを守るための対策
適切な対策による回復の可能性も示されており、早急な保護施策の実施が求められていいます。
スズメの減少を食い止めるため、地域社会や個人の取り組みが必要です。以下は具体的な対策の一例です。
スズメの巣箱の設置
スズメの巣箱を設置して、生息地の減少を補うことができます。
材料: 木製の板(厚さ1.5〜2cm)
サイズ: 高さ25cm、幅と奥行き15cm
入口穴の大きさ: 直径3.2〜3.5cm
設置場所: 地上から2〜3mの高さ、直射日光を避ける場所に設置
保守: 巣箱は毎年清掃して衛生を保つ
農薬の使用を抑える
農薬の使用を抑え、生物多様性を促進することで、スズメの餌となる昆虫の増加を目指します。有機農業の推進は、スズメの生息に適した環境を作り出すのに効果的です。
データ収集とモニタリング
スズメの個体数や分布に関するデータを収集し、適切な保護策の立案に役立てます。地域の公園での観察会などを通じて、多くの人がスズメに関心を持つ機会を提供する。
建築計画における巣作りの配慮
都市部でのスズメ保護を強化するため、建築計画においてスズメが巣を作りやすいスペースを確保することも有効です。
スズメは日本の自然と文化に深く根ざした存在であり、その減少は私たちの生活や生態系に影響を及ぼす深刻な問題です。スズメの減少を「寂しさ」ではなく生態系の警鐘と捉え、行動を起こすことが大切です。
私たち一人ひとりの小さな行動が地球環境を守る礎となります。身近な自然環境を守るため、私たちにできることを一緒に考え、行動に移していけたらと思います。