三重県三重郡菰野町にある菰野横山邸園は建造物と庭園がそれぞれ登録有形文化財、登録記念物(名勝地関係)に登録されている場所で、作庭家重森三玲が手掛けた石庭と表千家吉田紹敬宗匠が設計した茶室尽日庵があります。
菰野横山邸園は、三重県内では、初めて登録記念物(名勝地関係)として登録されています。
どれを見ても素晴らしいお庭ですが、重森三玲氏がこのお庭を着手した昭和43年2月15日は大雪だったそうです。 前庭は蓬莱神仙思想に基づいた蓬莱式の石組みが施され裏庭には当初予定していた設計を多少変更して場所柄的に思いきり明るくモダンな感じで整う紅白のお庭があります。
心字形の中島があるのは有名です。洲浜のような美しい曲線のフォルムは蓬莱山の仙境をイメージできます。その前庭にある築山の一部の土留施工と正門前の石畳が一際目立つ通路の横にあるイブキの刈り込みを行わせていただきました。
このお庭に触れさせていただくと、なぜか緩やかな時間の流れを感じます。 重森三玲氏に作庭を依頼した横山秀吉氏の思い、人間は心が第一に大切だから、心字の庭がほしい といった思いが今も生き続けているように感じる庭園でした。
私は庭は蜃気楼な物であって良いと思っており、実際の自然風景の上の虚像だと考えています。
見る人の心次第で、見方やとたえ方は違っても良いと思っています。
まずはゆっくりと自分の心でお庭を感じる事が大事なのではないでしょうか?
イブキの刈り込みは2021年3月27日土曜日に行われる~菰野巡礼ツアー企画~「心の旅」のイベントに参加する方に、綺麗な状態でお披露目したいという事でご依頼いただきました。
このツアーは伊勢西国三十三所観音巡礼を通して、菰野町の魅力である豊かな自然とともに三重や菰野の歴史を感じられるツアーになります。
別日に築山にある杉苔の一部張り替え作業も行わせていただきました。
散水は自動的に常時されているようでしたが、土の状態を確認してみると散水されていない箇所もあり
水切れで枯れてしまった場所、樹木からの雨垂れで枯れてしまった箇所の多くありました。
苔が生育するのは明け方と言われており、朝の日差しと朝露で本来であれば十分に育つはずですが、
人為的に作られた築山などは年月が立ち土質自体が悪くなっている事もあります。土質検査を行いましたがphなどは苔に良い安定した土質でした。
水捌けは少し悪いようだったので、土をほぐし今回使用した杉苔は黒土が十分に活着したものを使用させていただきました。
砂利などの影響により日差しが強いお庭では杉苔は広げた葉が赤茶色になり枯れてしまう事もありますが、杉苔は比較的暑さには強い好日性苔類に分類されますが、それでもやはり生き物なので夏場や冬場の水管理は大変重要になってきます。
お庭の管理というものは、植物達に全身全霊を込めてじっくり向き合っていくものです。 長い年月をかけ綺麗に維持されてきたものはそれなりの時間と手間は必ずかかります。 ですが、お庭は一瞬で簡単に壊れてしまう繊細な面も持ち合わせており、庭園という生きた自然に触れる際にはとても心の部分も重要になってきます。
じっくりと植物や樹木の声を聞きながら向き合えていけたら良いなと感じます。