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執筆者の写真三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空

住宅地の庭における生物多様性の評価

都市部における生物多様性は、生態系の機能と生態系サービスに貢献し、人間の健康や幸福を向上させる重要な要素の一つです。



住宅地の庭における生物多様性の評価


しかし、大規模な生息地の改変により、都市部では動植物の密度の低下が進んでいる所もあります。この問題に対処するため、公共および私有地の庭からなるグリーンインフラストラクチャーネットワークの強化が求められています。


グリーンインフラストラクチャーネットワーク(Green Infrastructure)とは、都市や地域における緑地空間を戦略的に計画、設計、管理することで、生態系サービスを導入し、人々の生活の質を向上させるための統合的なアプローチです。


これには、公園、緑地、庭園、街路樹、緑の屋根、雨水管理システムなど、さまざまな要素が含まれます。


グリーンインフラストラクチャーネットワークの主な目的は以下の通りです。


  1. 生物多様性の保全:在来種の生息地を提供し、生態系の連続性を確保します。

  2. 生態系サービスの提供:大気浄化、温度調節、雨水管理、騒音低減、レクリエーションの機会などを提供します。

  3. 気候変動への適応:都市のヒートアイランド効果を緩和し、極端な気象現象に対する耐性を高めます。

  4. 人々の健康と幸福の向上:自然とのふれあいの機会を提供し、身体的・精神的健康を促進します。

  5. 持続可能な都市開発:生態系と人間の活動を調和させ、持続可能な都市環境を実現します。


グリーンインフラストラクチャーネットワークは、従来の「グレー」インフラストラクチャー(建物、道路、下水道など)を補完し、都市や地域の環境的、社会的、経済的な課題に総合的に取り組むための重要な手段として注目されています。


効果的なグリーンインフラストラクチャーネットワークを構築するためには、生態学、都市計画、景観設計、土木工学などの分野が連携し、地域の特性に応じた戦略を立てることが求められます。また、行政、企業、市民団体、住民など、多様なステークホルダーの参画と協力が不可欠です。



特に住宅地の庭は、都市緑地の大部分を占め、生物多様性に大きく貢献できる可能性を持っています。そのため、住民に「野生動物に優しい」庭づくりを奨励することが重要であり、認証制度などのインセンティブが有効とされています。


米国では、「裏庭生息地認定プログラム」や「米国国立野生生物連盟認定生息地プログラム」などの取り組みが行われており、多くの住民の参加を得ています。


Backyard Habitats https://backyardhabitats.org/


Backyard Habitats(裏庭生息地)は、オレゴン州ポートランド地域の住民を対象とした、生物多様性保全を目的とする認証プログラムです。このプログラムは、ポートランド・オーデュボン社(Portland Audubon)とコロンビア・ランド・トラスト(Columbia Land Trust)が共同で運営しています。


ポートランド・オーデュボンは、1902年に設立された非営利団体で、オレゴン州北西部とワシントン州南西部における野鳥保護と自然環境保全を目的としています。一方、コロンビア・ランド・トラストは、1990年に設立された非営利の土地保全団体で、コロンビア川流域の自然環境を保護・回復することを使命としています。


Backyard Habitatsプログラムでは、住民が自分の庭を野生生物にとって魅力的な生息地に変えるためのサポートを提供しています。具体的には、在来植物の植栽、化学薬品の使用削減、水の保全、野生生物のための食物や隠れ家の提供などを奨励しています。


参加者は、プログラムの基準を満たした庭に対して、銀、金、プラチナの3つのレベルで認証を受けることができます。認証を受けた庭には、サインが提供され、地域の生物多様性保全への貢献が認められます。


このプログラムは、住民の環境意識を高め、都市部における生物多様性の回復に大きく貢献しています。2009年の開始以来、5,000以上の裏庭が認証を受け、総面積は約1,400エーカー(約567ヘクタール)に及びます。


Backyard Habitatsは、都市部の生物多様性保全における住民参加型アプローチの優れた事例であり、他の地域でも同様の取り組みが広がることが期待されています。



Garden for Wildlife(野生生物のための庭)は、全米野生生物連盟(National Wildlife Federation、NWF)が運営する、生物多様性保全を目的とした住宅庭園の認証プログラムです。

全米野生生物連盟は、1936年に設立された米国最大の民間自然保護団体で、野生生物の保護と生息地の保全を使命としています。


Garden for Wildlifeプログラムは、1973年に「Backyard Wildlife Habitat(裏庭野生生物生息地)」としてスタートし、2020年に現在の名称に変更されました。


このプログラムでは、住宅庭園を野生生物にとって魅力的な生息地に変えるための5つの要素を提示しています。


  1. 食物:野生生物のための食物源を提供する。

  2. 水:清潔な水を提供する。

  3. カバー:隠れ場所や安全な場所を提供する。

  4. 子育て場所:野生生物が子育てできる場所を提供する。

  5. 持続可能な慣行:庭の管理において持続可能な方法を採用する。



参加者は、これらの要素を満たす庭を作り、オンラインで申請することで、「Certified Wildlife Habitat(認定野生生物生息地)」の認証を受けることができます。認証を受けた庭には、サインが提供され、地域の生物多様性保全への貢献が認められます。


2022年5月時点で、全米50州の27万以上の庭が認証を受けています。また、学校、企業、コミュニティガーデン、公園など、さまざまな場所で認証が行われています。


Garden for Wildlifeは、2027年までに100万の庭の認証を目指す「Million Pollinator Garden Challenge(百万の花粉媒介者の庭チャレンジ)」キャンペーンも展開しており、特に花粉媒介者の保護に力を入れています。


こうした認証制度を効果的に運用するためには、専門家でない人でも迅速に実施でき、一貫性のある生物多様性評価ツールが必要です。植生の範囲・構成・構造、生息地の特徴などが生物多様性の指標として機能することが知られており、住宅地の設計も重要な要因となります。


住宅地の庭は、生物多様性を育む貴重な空間です。一人一人の小さな取り組みが、地域全体の生態系ネットワークを形成します。日本の文化に根ざした「庭づくり」の伝統を生かしつつ、野生生物との共生を目指す新たな庭のあり方を追求していくことが、持続可能な庭の実現になります。


自治体、民間団体、研究機関、市民、造園業者などが一体となって、住宅地の庭における生物多様性保全を推進していくことを期待します。


日本発の優れた取り組みが、国内外に発信され、地球規模の環境問題の解決に貢献することを願っています。



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