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  • 執筆者の写真三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空

"侵入的"の認識ギャップ:庭師の視点と侵入科学・環境政策の対比から考える外来種問題」

地球規模での生物多様性の危機が叫ばれる中、外来種の侵入が世界各地で大きな問題となっています。園芸植物も、侵略的な外来種となるリスクを孕んでいるのです。英国では、観賞用園芸が外来植物の主要な侵入経路となっており、その管理の最前線に立たされているのが、約3,000万人もの庭師の方々です。



"侵入的"の認識ギャップ:庭師の視点と侵入科学・環境政策の対比から考える外来種問題」


外来種対策において、庭師の方々の役割は非常に重要です。しかし、庭師の方々は侵略的外来種をどのように認識し、どんな基準で判断しているのでしょうか。英国の研究チームは、201名の庭師の方々に「侵入植物をどのように定義しますか?」というアンケートを実施しました。


その結果、庭師の方々にとって、「広がり方」と「他の植物や環境への影響」が「侵入的」の主要な定義概念となっていることが明らかになりました。この点は、侵入科学や環境政策の定義とも合致していました。しかし、ほとんどの庭師の方々は「侵入的」という言葉を自分の庭の中に限定して使っており、自然環境への悪影響を重視する専門家との間に認識のギャップがあることが浮き彫りになったのです。


また、園芸家の方々の「侵入的」のとらえ方には、在来種か外来種かという区別はあまり重要ではないようでした。むしろ焦点となっていたのは、植物の「広がり方」や「影響」です。さらに、雑草との違いについての認識も曖昧であることが明らかになりました。


この研究は、侵入科学者や環境政策担当者が庭師の方々とコミュニケーションを取り、行動変容を促すための重要なヒントを与えてくれます。自然環境への影響という視点を共有し、外来種と雑草の違いを明確にすること、そして園芸家の方々の美意識やライフスタイルに合わせたアプローチを心がけることが大切だと指摘されています。


英国だけでなく、日本でも外来種の侵入は深刻な問題となっています。日本の環境省が公表している「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」の植物編には、さまざまな分類群の侵略的外来植物が掲載されています。


リストを見ると、これらの植物の多くは旺盛な繁殖力を持ち、在来種を駆逐したり、生態系の構造や機能を変化させたりする可能性が高いことがわかります。また、人の健康や経済活動に悪影響を及ぼす種も少なくありません。園芸目的で意図的に持ち込まれた種が多数を占めている点も見逃せません。


生態系被害防止外来種に指定されたことで、これらの植物の輸入、飼育、栽培、保管、運搬、放出などが原則として禁止されます。しかし、すでに各地で野生化しているものも多く、完全な根絶は容易ではありません。予防的な水際対策とともに、すでに定着した個体群の駆除や拡散防止策を粘り強く進めていく必要があります。加えて、外来種問題への理解を広げ、意図的な導入を未然に防ぐ啓発活動も欠かせません。


このリストには現時点で評価された種が掲載されていますが、まだリスク評価が不十分な外来植物も数多く存在します。モニタリング体制の強化や、掲載種の生態系への影響のより詳細な研究、効果的な管理手法の確立などが重要な課題だと考えられます。


外来種問題の解決には、一人一人の行動変容が欠かせません。英国の事例が示唆するのは、専門家と庭師の方々の間に横たわる「認識のギャップ」の存在です。日本でも同様の調査を行うことで、環境保全に向けた新たな一歩を踏み出せるかもしれません。一方的な知識の押し付けではなく、庭師の方々の感覚や価値観を大切にしながら、協働の輪を広げていくことが何より重要なのです。


生物多様性の保全は、私たち人類の生存基盤であり、未来への希望です。外来種問題は、その基盤を脅かす大きな危機の一つと言えます。行政による対策とともに、NPOや市民団体、園芸業界、研究者など、多様な主体が手を携えて取り組んでいくことが強く求められています。


庭師の方々の知恵と経験は、侵略的外来種への対策に大きな力となるはずです。専門家とのコミュニケーションを深め、互いの認識のギャップを埋めながら、協力して課題に取り組んでいくことが大切だと考えます。一人一人の意識と行動の積み重ねが、地域や地球の未来を守る鍵となるのです。


【参考文献】

  1. Tomos Siôn Jones et al. (2023) "How do gardeners define 'invasive'? Implications for invasion science and environmental policy", Environmental Science & Policy, Volume 141, Pages 103614, ISSN 1462-9011, https://doi.org/10.1016/j.envsci.2023.103614.

  2. 環境省 (2023) 我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト) https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist/

  3. 国際自然保護連合(IUCN)"Invasive alien species" https://www.iucn.org/theme/species/our-work/invasive-species

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