三重県四日市にあるYOKKAICHI HARBOR尾上別荘様の松に菰巻きを行いました。
日本庭園の冬の風物詩として親しまれている菰巻き。400年以上も前から受け継がれてきたこの伝統技法には、実は奥深い知恵が詰まっているんです。
菰巻きの面白いところは、松の木を守るという実用的な目的と、日本人ならではの美意識が見事に調和している点。稲わらで編んだ「菰」を松の幹に巻きつけるのですが、上をゆるく下をきつく巻くという工夫には、害虫対策としての先人の知恵が隠されています。
菰巻きの面白いところは、その巻き方にあるんです。稲わらを丁寧に編んで作った「菰」を松の幹に巻きつけるんですが、上の方は少しゆるめに、下の方はしっかりと締めます。これには実は、賢い理由があるんです。
特に気をつけたいマツカレハという虫の幼虫は、冬になると木の上から下へ移動する習性があります。この習性を利用して、下り降りてきた虫を菰の中で捕まえやすくするように工夫されているんですね。
このように、虫の習性をよく観察して、それを上手く活かすという考え方は、まさに日本庭園の「自然と仲良く付き合っていく」という精神そのものだと思います。
今回三本の黒松に菰まきを取り付けましたが、一本の松には梅結びをつくり、来客された方が笑顔になってくれるかなと思います。
菰巻きは冬の訪れを告げる風物詩として、立冬から啓蟄までの期間に行われます。雪の積もった庭園で、金色に輝く菰巻きの松を見かけると、日本の冬ならではの風情を感じますよね。わらの優しい金色と、松の深い緑のコントラストが何とも言えない美しさを作り出すんです。
こんな風景を眺めていると、日本人が大切にしてきた四季の移ろいや、繊細な美意識を、まさに目の前で体験しているような気持ちになります。まるで、昔から変わらない冬の情景が、そこに生き続けているかのように。
最近の研究でわかってきたのは、菰巻きが思いがけない形で生態系にも貢献しているということ。姫路城での調査では、菰の中にクモやサシガメといった益虫が住みつき、むしろ害虫を退治してくれる「自然の守り手」になっているそうです。
最近の研究でわかってきた面白い発見があるんです。実は菰巻きは、害虫を防ぐだけでなく、クモなどの益虫たちの冬の住みかとしても大切な役割を果たしているんですよ。自然の中での「食う食われる」の関係をうまく活用して、人の手が加わることで、かえって生態系のバランスを保っているんです。
これって、まるで小さな自然の実験室のよう。菰巻きという小さな空間が、庭園の生き物たちの関係を豊かにして、長い目で見ると環境のバランスを支えているんです。
こういった新しい発見をきっかけに、菰巻きの価値を見直す動きも出てきています。害虫対策としてだけでなく、生き物たちを守る方法として、また霜や雪から木を守る防寒具として、さらには気候変動が生き物たちに与える影響を観察する手段としても注目されているんです。
今、私たちの社会では、なるべく農薬を使わない、自然に優しい庭づくりが求められています。そんな中で、菰巻きという昔ながらの技法が、現代的な課題の解決のヒントになるかもしれない。益虫たちが冬を越せる場所を作ることで、自然の力で害虫を抑制し、農薬の使用を減らせる可能性があるんです。
このように、何百年も前からある菰巻きという技法が、実は現代の環境問題に対するヒントを与えてくれている。伝統の中に、未来への知恵が隠されているというのは、とても興味深いですよね。
私たち造園業者にとって、この伝統を守り続けることは大切な仕事です。最近では、様々な角度から庭園に興味を持ってくださる方が増えてくることが、とても嬉しく感じています。
自然との付き合い方を考えたとき、大切なのは自然を一方的に利用するのではなく、共に生きる仲間として接すること。菰巻きは、まさにそんな日本人の知恵と精神を表現している気がします。
時代と共に菰巻きの役割は少しずつ変化してきましたが、その本質にある「自然との共生」という考え方は、むしろ今の時代だからこそ大切なものかもしれません。歴史ある日本庭園の技法の中に、実は未来の環境づくりのヒントが隠されているんです。これからも、この大切な文化を守り、次の世代に伝えていけたらと思います。